春休みの、それもど真ん中。
中途入学者への入試も合格発表も済んでいる頃合いだし、
部活があってと登校してくる顔触れもあるほどで、
学舎の利用自体には特に問題はないながら。
「こんな時期に外部から有名作家を呼んでの講演会だなんて、
随分と思い切ったことを企画したものですよね。」
学園祭にとか、
ゴールデンウィーク前に催される、
懇親会のメインにとかいうご招待ならともかくも。
時季外れもはなはだしい、こんな時期になんでまた、
「それも、卒業生ってワケでもないのに。」
ちょっとした講堂ほどはあろう広さの講義室、
壇上にあたる教卓の上へ大ぶりの花瓶を据え。
そこへと手際よく、
ガーベラとフリージア、スターチスといった春の花を生けながら、
お花の出来へか、それとも今日の催しへか、
小首を傾げたのが、草野さんちの七郎次お嬢様ならば。
「本当は、学園祭にお呼びしたかったらしいですよ?」
バカラの水差しとグラスをトレイへ載せて、
しずしずと運んで来た赤毛のお友達、
セーラー服の襟へとかぶせた、礼服仕様のカバーを白く光らせて、
林田平八さんが、そうとお口を挟む。
久方ぶりの上天気で、陽向にいると汗ばむくらいないい陽気。
だというのに、
屋内での催しに向けての準備に駆り出されていた彼女らであり、
「……人気作家だ、商用でない講演へは なかなかな。」
本人の意図とは関係なく、
出版社が取り継がないのだろうさとの意を紡いだのが、
金の綿毛を窓からの陽にけぶらせている、凛とした眼差しのお嬢様。
壇上の傍らへと設けられた進行役の席に、
資料のファイルを運んで来たらしい彼女へと、
「そんなお相手へ繋がる、
有力な手づるを提供したの、久蔵だって聞きましたけど?」
平八が愛らしい猫目をなお細め、
知ってるんだからとのツッコミを入れれば、
「悪いか。」
特にホテルJ利用者の名簿に頼った訳でもなく、
マスコットとして何かというと可愛がってくださっている著名な方々へ、
何とか出来ないものかと慣れないおねだりをしたらしく。
日頃から それはそれは寡欲な少女、
それがそんな思い切ったことをしたのがあまりに珍しかったので、
これはひとつ叶えてやるべえと、
大人の皆様が手を回して下さってのそれで。
随分と例外的要素だらけながら、
今回のご招待への了解を得られた段取りらしいとのこと。
確かに、
この少女がそういう“奥の手”を行使するなんてのも、
らしくないその上、
「文芸部に親しい方がいたワケでもありませんでしょうに、何でまた。」
すぐ外の廊下を行き来する女生徒たちのだろう、
厳格な躾けが行き届いているはずが、
時折沸き立つ、らしくもない浮き立ったお声といい。
今日の催しはどちらかといや、
全校生徒を集めてという代物ではなく、
一部の顔触れによる、
ミーハーな集いというカラーが強いことを忍ばせており。
それへと呼応するかのように、
ふふんと強かに笑って見せた紅バラ様曰く、
「ファンだからな。」
「お、何でしょか、そのストレートな理由は。」
階段状の座席が取り巻く教壇に、
活けられたお花の出来を見るよう、お顔をそろえた三人娘だったが、
今日の集いに自主的にやって来たのは、久蔵と平八の二人だけ。
休みの只中だってのに学校へ行くという二人だと聞き、
七郎次も同行し、ついでに師範格の腕を持つお華の才を発揮したものの、
妙に意気投合している二人のムードに着いてゆけずで、
所謂“置いてけぼり”を食っているよなもの。
「何なんですよ、二人して。」
「だって。」
顔を見合わせたのも束の間、
「シチさんこそ、御存知ないなんて意外ですったら。」
ひなげしさんが小首を傾げつつ、
ポケットから取り出した携帯で、とある出版社のサイトを呼び出すと、
そこへととある人物の画像を呼び出して見せる。
「ほら、この人が今日お招きする島谷勘平さんです。」
「………あら。」
彫の深いお顔はどこか異邦人ぽくもあり、
深色の双眸から発する冴えた眼差しや奥深い表情が、
様々な苦渋を呑んで来たのだろ、彼のこれまでの道行きを忍ばせる。
小説家という自由業だからか、
鋼色の髪を背中までと延ばしておいでで、
「幻想SFが秀逸なんですよねvv」
「俺は時代活劇が…♪」
どうやら二人とも作家先生のファンだったようで、
しかもしかも、
「シチさんが全く知らないなんて意外ですよね。」
「…、…、…。(頷、頷)」
呼び出した画像は小さな液晶画面だったから、
ちょいと判りづらいかも知れませんがと断ってから、
「勘兵衛さんに似てませんか?
年頃も顔立ちも、体格や雰囲気も。」
「…、…、…。(頷、頷)」
「……………そうっかなぁ。」
昔は時たまながら、
色んなゲームの原作者だからってことで、
マスコミの取材にも結構応じていたんですが。
最近は執筆が忙しいからでしょうね、
あんまり露出もしなくなってて…と。
情報通の平八はともかく、
「きっと武道を修めているぞ。」
時代物の活劇シーンの躍動感は半端ないと、
白い手をぐっと握り込む久蔵のこうまでの興奮ぶりは珍しい。
それほどファンかと驚きこそすれ、
再び見直した写真はやはり、
“勘兵衛様に、似てる…って?”
どうっかなぁ。
そりゃあまあ、髪の質とか面差しの傾向は近いかもしれないけれど、
それを言ったら…と、白百合様が胸の裡(うち)にて呟いたのが、
“○ぐざいるのメンバーにも似た人いるし。///////”
………シチさん、何て大それたことをお言いでしょうか。(苦笑)
「とはいえ、わたしたちも実物を見るのは初めてですので。」
「…、…、…。////////(頷、頷)」
もしかしたらば、写真映りと実物は随分と違うかも。
文学青年が年とったような。
ひ弱かも知れぬ…ってですか? そりゃ失礼でしょう。
罪なく キャッキャとはしゃぐ女子高生たちが。
そしてそして、
そんな彼女らとお顔を合わせることとなる、
とある著名な作家先生が。
その時に一体どんな感慨を持つのやら。
そこいらは皆様のご想像にお任せすることとして。(…おい)
明日は新年度の始まり、
どちら様もどうかご健勝のままお迎えになられますように。
〜どさくさ・どっとはらい〜 11.03.31.
*究極の“書き逃げ”で申し訳ない。(こら)
四月馬鹿をやんない代わりということで。
いよいよのご対面を果たしても、
きっと三人娘たちの感慨はやっぱり変わらずで。
白百合さんにだけ、
そっくりとは言えないよなっていう感想なんですよ?
片や、島谷せんせえは、
おやおや、シチの若いころのような美少女が…とほくほくし、
ついて来たシチさんは、
聴衆の一角を見て
おやまあヘイさんの姪御さんでしょうかねぇと、
ちょっとした誤解をし。
そのお隣の紅眸の美少女へ、
“…………どっかで見たようなお顔だよねぇ?”と。
お膝に抱えたバスケット(in 久蔵)を撫でつつ、
小首を傾げてしまうといいです。(微笑)
めーるふぉーむvv 


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